「蠅の王」(ゴールディング)①

読み終えて後味の悪さが強く残る作品です

「蠅の王」
(ゴールディング/平井正穂訳)
 新潮文庫

どことも知れない孤島に
取り残された少年たち。
大人のいない島で
彼らは隊長を選び、
救出されるのを待ちながら
平和な生活を送りはじめる。
やがて島には
野生の豚がいることがわかり、
狩猟を主張するものが現れ…。

読み終えて
後味の悪さが強く残る作品です。

はじめはうまくいっていた共同生活も、
豚を狩る狩猟隊が組織されたことから
次第に綻びを生じるようになります。
隊長に選出されたラーフと
狩猟隊リーダー・ジャックとの
対立が表面化し、
やがて殺人にまで発展します。

血なまぐさい部分はひとまず置いて、
本作品を寓話として捉えた場合、
現代社会に通じる
いくつかの要素が見えてきます。

隊長・ラーフは、
教養が感じられることと
常識的な判断力があることが
取り柄なのですが、
決して指導力のある
リーダーとは言えません。
彼の持つ「ほら貝」は
集会時での発言権を表すものであり、
これは民主主義を
表象化したものと考えられます。
つまり彼は、
民主主義によって選出された
(指導力のない)リーダーということに
なります。

一方、ラーフと対立するジャックは
人心掌握の術に長けていて、
カリスマ性まで帯びています。
これは一つの「政治力」と
見なしてもいいのではないでしょうか。
彼は権力の地盤固めの最終段階として
ラーフたちを夜襲し、
ピギーの眼鏡(火を熾すための
凸レンズ)を強奪します。
ついにはピギーを殺害、
ラーフ討伐の指示を出します。

二人の周囲も見てみます。
ジャック一味は
ピギーとともにサイモンも殺しますが、
ジャック本人は手を下していません。
直接行為に及んだロジャーは
政権直属の
軍隊というところでしょうか。
ピギーは行動力こそないものの
知性に裏打ちされた
正しい提言をいつも行います。
優れた官僚といえます。
サイモンは山上の恐ろしい獣の正体を
皆に伝えようとします。
報道機関の役割です。

ラーフのグループが
民主主義体制だとすると、
ジャックの一味は独裁君主国家です。
暴走した後者の勢いに、
政治機構や報道機関を含め、
前者は完全に駆逐され
敗北したことになります。

改めて感じます。読み終えて
後味の悪さが強く残る作品です。
しかし、それを承知で何度も
読み返したくなる作品、
いや、読み返さなくてはならないと
思わせる作品でもあります。

(2019.6.21)

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